音楽劇マリウス ストーリーと感想編

想いは、事実は、本人しか知らないいきさつは。大切な相手へ伝えないと、その相手は何も知ることはできない。たとえ、それが壁1枚で区切られているだけの空間だとしても。毎日顔を合わせている人たちであっても。あるいは一緒に暮らしている家族や、想い合っている男女であったとしても。そんな当たり前のことを、まざまざと突き付けられた。


音楽劇マリウス。
自担の初単独主演舞台。 大阪へ2回遠征。初日・3日目、千穐楽前日・楽日と計4日、山田洋二監督が描く1931年のフランス・マルセーユへ旅してきました。

個人的前半・後半の間に、原作を同一のものとして映画化されている「ファニー」を見たこともあり、終演後に抱いた感想が全く違いました。その点にも触れながら、この記事ではあらすじと感想を残しておけたらいいなと思います。ネタバレでしかないので、将来再演、なんて奇跡が起きた時、観劇前にこの記事を見つけた方はご注意下さい。あと、この記事1万字超えてしまいました。ので本当に時間がある方だけ、、いやでもマリウスの話はみんなに知ってほしいから途中まで…笑





最初に。正直、ストーリー自体を、最後の最後まで好きになることはできませんでした。初回こそ、悲しくて切なくてやるせなくて、1幕の途中からずーっと泣いていたけれど。 段々冷静になって観ると、誰にも共感しきれないし、ハッピーエンドでもない(と私は思っている)し、マリウスはクズだし、ファニーは一人で大人ぶっちゃってるし、結局パニスは金にモノ言わせてしまっているし、セザールも不本意ながら息子を送り出さないといけないし、坊やも坊やで周りの大人に複雑な思いを抱かせているとも知らず生きていかなくちゃいけない訳で…

それでも、この舞台が大好きだったと胸を張って言えます。主演の方がかっこよすぎた点については一旦置いておくとして。笑  照史くんが何度も口にしていたように「カンパニーの皆さんが醸し出す」温かな雰囲気が大好きだったから。美しい景色の中、のんびり時間が流れて、その日その日を楽しむエッセンスとしての会話や噂話が大好きなマルセーユの人々が大好きだったから。お話自体をうまく消化することはできないけど、何度でもあの空気感に触れていたかったから。劇中に流れる音楽の数々が、心にスーっと入り込んでくる感覚が恋しく感じるから。

舞台期間の折り返し地点で、私自身が昔住んでいた地域で大きな地震があって。色々と大変な思いをしている人たちがいる中、余震の不安もある中で大阪へ向かうことに対して迷いはかなりあったけれど、きちんと見届けることができて、2回遠征した価値も間違いなくあったなぁ。



大まかなストーリー。所々、私の口が悪いツッコミが入りますがご容赦下さい…

24歳のマリウス(父子家庭)、19歳のファニー(母子家庭)。幼馴染で、周りの大人たちも、2人が結婚するものだと昔から信じ切っていた。マリウスが20歳になったら、くっつくものだと。
もちろん当の本人たちも、お互いを好きあっている。の に 想いを伝えられず。というのも、ファニーはマリウスの気持ちを本人から聞きたかったから。他方のマリウスには、“船乗りになりたい”という夢があったから。カフェ・バーを営む父の跡取りになって、食事を提供するだけの人生だと思うと、涙が出るほどゾっとする時がある。インドとかアメリカとか、どこか遠くへ行って広い世界を見てみたい。…そんな船乗りになると、何年も家庭には帰って来られない。それは所帯持ちとしてはあるまじき姿。だから、船乗りになりたいという夢のことは心に秘め、「ファニーに惚れるのはやめた、俺は女房を持っちゃいけない」という覚悟をファニーに伝える。神父さんになるの?というファニーの問いか けに首を横に振り、大事なところを伝えないマリウス。
船乗りの話をしたら、ファニーに“私と海どっちを取るの?!”って言われるし、それ言われたら自分の心が揺らぐの分かってるもんね。ファニーを後妻にしようとプロポーズした55歳の大金持ちじじい(パニス)に焼きもちを妬いて、思いっきり水をぶっかけるもんね。
それだけ好きなファニーへの想いを断ち切って、海へ向かおうとするマリウスの覚悟をガラガラと崩壊させたのは、他でもない、ファニー自身。パニスのプロポーズは断った」・「あなたの妻になりたいの」・「あなたがいなくなったら私はおしまいよ」・「私のこと好きなんでしょ?私があなたを好きなように」・「何にも分かってないのね、私が目を覚ましてあげる」「それでも覚めなかったら、船乗りになればいい。私は子供を育てながらあなたの帰りを待つわ」と畳みかけるようにマリウスへ迫る。その直前に、憧れの帆船*1の乗組員として乗船できることが決まっていたにも関わらず、ファニーの熱烈な愛を受け、その帆船へ乗る想いを断ち切る。 大好きな女の子に告白されて、迫られて、我慢できるわけないよ24の血気盛んな男性だもの…というわけでそのままキスしてベッドイン(しかも自分の家にいたのに、ファニー家にたまたま在宅者がいないからとファニー宅に行くという)。

翌日*2通い妻ならぬ通い彼氏していたのがバレるマリウス。ファニー宅のダイニングにベルトを忘れるという大失態を犯したから(あほ)。それを見つけたファニー母(オノリーヌ)、マリウス父(セザール)にどうしようと泣きつく。セザールは「2週間後には結婚して式挙げてるようにしておくから安心しろ」とオノリーヌに言い、マリウスにも「ファニーの貞操を弄ぶようなことがあったら父ちゃん許さんぞ」と釘を刺す。観念したマリウスは、完全にファニーへプロポーズする気満々。
ファニーも別のところで、オノリーヌに夜のことがバレたことを知り、マリウスへ「見つかった」伝える。マリウス自身は「見せつけてやればいい、オノリーヌのところへ話に行こう」と言う。*3

すると、それを拒むファニー。ファニーは、自分がここマルセーユにマリウスを縛り付けることで、彼が不幸になるのは見たくない・「あなたに抱かれる前、私は子どもだった。でも今は世界が違って見える。今は離れたどこかであなたが幸せになっていると思うほうがいいわ」とマリウスへ伝える。 ファニーのためだけに、帆船への乗船権を手放そうとしていたマリウスは、「俺に惚れてるなら、力いっぱい抱きしめて、ここで俺を繋ぎ止めてくれよ」・「お前が一言二言、余計なことを言うと、今すぐここから飛び出しそうなんだ」と懇願する。「俺がいなくなったらお前はどうするんだよ」と聞くマリウスに、「私には私のつもりがある」と金持ちパニスとの結婚を仄めかすファニー。「プロポーズを撥ねつけたって言うのは嘘だったんだ…」とショックを隠せないマリウスに対し、ファニーは追い討ちをかけるように「惚れた腫れただけが人生じゃない」なんて、昨晩*4とは真逆のことを言う。 その発言に怒りが噴火!キャパオーバー!なマリウスは「俺は海と結婚する、お前はパニスの金庫と結婚する、そのほうが良いんだろ」とファニーに言い捨て、ファニーもそれを肯定し*5、彼女を一度抱きしめ(お互い好きなんじゃんバーカ)、憧れの船へ、逃げるように乗り込む。片親で育ててくれたお父さんに別れの挨拶も無しに。



2か月後。マリウスからの手紙がセザールの元へ届く。強がりながらも、息子の生存が確認できた父は安堵の表情を隠せない。そんな穏やかな気持ちも束の間、ファニーの妊娠が発覚する。親はもちろんマリウス。今の季節は秋。3月には赤ちゃんが生まれると。結婚していない娘から子供が生まれるなんて恥でしかない*6から、誰かと結婚させなければ、という話に。そんな中、白羽の矢が立ったのは、あろうことにか例の金持ちじじいパニス
一方で、インド洋のアデン湾から手紙を送ったマリウス。フランスまでその手紙が届くには1か月程度かかるとのこと、つまり出港後1か月後に書いた手紙ということ。その手紙には、父への謝罪の言葉と、今自分はこんなものを見てとても幸せです、と船上での生活に対して前向きな言葉が綴られていた。それを読むセザール。そして自分に手紙が届かないから、セザールへの手紙を読ませてもらったファニー。そんな2人の気持ちは…セザール「俺たち2人を捨てて*7あいつだけ良い思いしやがって。ファニーが今どんな気持ちでいるか…」。ファニー「いいのよあの人の幸せが私の幸せなの」。 実は、その手紙とは裏腹に、寂しくてファニーに会いたくて仕方がなかったマリウス。でも、ファニーが別れのときに言った言葉を信じているマリウスは、“パニスと一緒になるのを邪魔したくなかった”から、ファニーに手紙を送れない。(バカか。)

月日は経ち、1年半後。シドニーで船が故障して時間ができたため、マルセーユに一時帰国したマリウス。セザールが“パニスとファニーが結婚して、子供が生まれた”ことだけは手紙で伝えていたから、祝福の言葉を言いにきたというマリウス。そんなマリウスへ、セザールは「お前がこの街に帰ってくることで不幸になる男が1人いることが分からんのか」・「ファニーにおめでとうだなんて、あの子が2年間どんな思いで生活してきたのか分かってんのか」と怒る。何も知らないマリウスは「久々に帰ってきたのにそんな風に怒るなんて」と悲しむ。そこに、帰ってきたという噂を聞きつけて、マリウスの元へ現れるファニー。

どうして手紙をくれなかったのかとお互いに聞く。ファニーは「あなただってくれなかったじゃないの」、マリウスは前述の理由を伝える。ファニーはマリウスがどこまで話を知っているか聞き、マリウスの子供だという事実を知らないと確認する。「ファニーは幸せなんだろ?」と聞くマリウスに「私は静かに暮らしているつもりよ」とぼやけた答えをするファニー。マリウスが重ねて「静かに、そして幸せに、だろ?」と聞くと、ようやく首を縦に振るファニー。そこへタイミングよく現れるオノリーヌと、ファニーの赤ちゃんを抱いたオノリーヌ妹(クロディーヌ、ファニーのおば)。そしてクロディーヌがうっかり「そっくりだねぇ、お父ちゃんだよ」なんて赤ちゃんにマリウスのこと紹介(?)した ことで、みんなが秘密にしていた事実がバレる。

どうして教えてくれなかったんだ、とファニーへ詰め寄るマリウス。「憧れの海の上で、『子供ができたんだけどどうしよう』なんて貴方が知ったときのことを考えたらたとてもじゃないけど言えなかった」と言うファニー。お互いがお互いのためを思って連絡できなかったことがここになって仇となったことが露呈する。一時帰国のつもりだったけど、事実を知って、ファニーへの気持ちが溢れたマリウスは、ファニーが一度突き放したにも関わらず思い切り抱きしめてキス。「良くないぞ2人とも。この人はパニス夫人だ」と止めに入るセザール。マリウスはそんな父にもどうして教えてくれなかったんだと聞く。俯く父。

そこへパニスが登場。子供の件に関し白を切るつもりのパニスに、マリウスが“お前の子だぁぁぁあん??!?”ばりの勢いで盾突く。知ってたのか、この日が来るのが怖かったと告白するパニス。マリウスは、パニスとファニー次第で今後の生活をどうするか考える、こっちに残っても良いなんて言い出す。パニスは、ファニーはマリウスのこと愛しているから仕方がないとしても、子供だけは勘弁してくれと、マリウスの足元に泣きついて懇願する。

その後、セザールとマリウスが2人きりで話を。「子供は俺のものだ」・「俺は命をやった」と言うマリウスに、めちゃめちゃ叱りつける父セザール。「お前がほしかったのは赤ん坊じゃなく、ファニーだ」・「命は犬だって牛だってやる、赤ん坊から命をお前から引き出したんだ」・「赤ちゃんの体重は生まれてから5キロ増えた、その5キロは情愛だ。ファニーはファニーの分をやった、俺も俺の分はやった、でも一番やったのはパニスだ。情愛は軽いものだ、それが5キロと言ったら…」。それを聞いてもなお、マリウスは「父ちゃんは俺にどうしてほしいんだよ」なんて聞くから、父から1発殴られる。(そりゃそうだ)

殴られ、そしてファニーにパニスは自分の命より子供が大事なの」と言われても、ファニーへ「一緒に行こう、子供はファニーが連れて出れば良い」とか言うマリウス(クズ)。ファニーが「それはできない、あの人は命の恩人なのよ、私を助けてくれたの」・「パニスは、私の気持ちをよく知ってるから、結婚してから体に触ってきたことはないのよ」とマリウスに伝えたことで、ようやく諦めがついたマリウス。ファニーと永遠の愛を誓い、マルセーユを後にする。
『哀れなマリウス、どこに行く』





肉付けを落とすとこんな感じのお話でした。
書き起こして改めて思ったけど、後半のマリウス本当にくそったれだね?甘えん坊だね?なんでこんな男にファニーさん惚れたの…って言っても「様子が良い」から仕方ないですよね、分かります。ていうかあんたたち2人とも、お互いの見た目が好きでしょ、違う?笑


とそんな話はまた改めてするとして 冒頭に書いたように、この物語内の歯車が狂ってしまったところ所以って、素直になれなかったところだと思っています。お互いがお互いを想い合っているがゆえに、気遣いだと思って伝えなかった本当の気持ちが裏目に出てしまって、結局お互いが望んでいるような未来が迎えられなかった。

マリウスが海に飛び出してからでも、マリウスが「海に出られて幸せだけれど、父ちゃんとファニーも恋しいです」と手紙に気持ちを託せれば。ファニーが「喧嘩別れみたいになってしまったけど、素直に言うわね。あなたとの子供ができたの。できることなら帰ってきてほしい」と手紙が書けたなら。セザールが「自分勝手なお前に、こんなこと言うもんかと思ったが。マリウスとファニーの幸せを思って言うぞ。帰って来い。お前の子がファニーのお腹の中にいるぞ」と伝えられたなら。どれか1つでもきっかけとしてあれば、きっとマリウスは即マルセーユに戻って、パニス以上に良いお父さんになれたんだろうなぁ。

キリスト教の世界の話だから、未婚同士で不貞行為をしたことがどれだけ大きな罪に値することかは想像するしかないのだけど。ファニーが「私が抱いてって言ったの。だからマリウスに責任はないのよ、あなたは自由なのって送りだしたの。だから彼を責めないでちょうだい。私、彼を連れ戻して一緒に暮らしたいの。だから連絡させて?それでも彼が帰ってこなかったら、私はこの地域を出ていくわ」くらいのこと言って、飛び出していったマリウスを強引に連れ戻すことだってできたはずな訳で。ていうかその事実を、オノリーヌもセザールも知らないから、「あのバカ野郎が!ファニーを抱き捨てておいて!海に出て!こんちくしょ」ってなるのは当たり前じゃん……半ば無理やり送りだされたマリウ スがあまりにもかわいそう。一回ファニーに引き止められなければ、子どもが生まれることもなく、パニスとファニーが結婚することもなく、「やっぱりファニーが恋しいかーえろっ」て言って帰って来れたかもしれないのに;;;そしたら夢に描いたようなハッピーエンドだったのに;;

ていうか、抱かせておいて、「あの人が世界一好きな女は私よ」ってマリウスの気持ちに確信が持てたから、自分への愛があると信じられたから、無理やり“彼の夢=海”へ送り出せたんでしょ??勝手か???貴女のことが死ぬほど好きだというマリウスの気持ちは汲んであげられないの????「私には私のつもりがある」って突き放したけど、本当は「それでもお前と一緒にいるよ、ファニー」って言ってくれるのを待っていたんだよね?女心ってそんなものだもの。でもそういう気持ちが分からない、言葉の含みなんて分からない男、それがマリウスだっていうのはファニー自身がよく分かっているじゃないの;;;;;泣いちゃう、ばかばか。
あと千穐楽近くでは変わっていたけど、お別れシーンで「私にキスしてくれないの?」あれはないですぜ…さっき!あなたとは無理なのって!言ったじゃないか!よくないじゃないか!

1回目の遠征で観劇した感想、お察しの通りファニーのことが腹立たしくて仕方ありませんでした。最終的には金かー女はしたたかだよなーー。オノリーヌも、結局パニスには金あるし娘も自分も玉の輿だしーーーって。
あと、筋書きの中では触れなかったけれど、パニスが「坊やが咳した」って周りの誰にも聞こえていない咳のことを騒ぎたてる件。あれがどうしても「老化による幻聴」としか捉えられなくて。それを聞いたファニーも「私がどうにかなってしまいそうだわ」なんて言うから、それをマリウスも聞いてしまったから、そりゃ不幸せそうなファニーを連れて出ていきたくなるよねぇ…って思いました。パニスがどうして子供にそこまで執着するのかも分からなくて。若い女の子だったら誰でも良いって感じで、序盤でファニーにプロポーズしてたのではないの…あんたの財力があったら(全財産20億じゃくだらないくらい)、上辺だけ取り繕って愛してるふうを装って子供作ってくれる女いるから……

マリウスも、帰ってきたら父親から突然冷たくされてびっくりしたよね;保護;;みたいな感覚。これは照史くんの表情のせい。かわいいから、かわいそうに思っちゃう。だって誰も自分の子供が生まれてるなんて教えてくれてないじゃんかー?!寂しいばかりの船旅から久々に帰ってきて、父ちゃん元気かな、なんて思ってたらお前が帰ってくるとパニスが不幸になる、だなんてそんな~~~だよね。かわいそうによしよし…



って思っていたんですけど

映画「ファニー」を見たら見方が90度くらい変わりまして。
「ファニー」では、マリウスが船に乗ってしまってから、マリウスとファニーの子どもが生まれるまで、とその子が大きくなった後のことが描かれているんです。この映画をみる予定の方もいると思うので、その方はちょっとここでバックか、色薄くするからその部分飛ばして読んでいただけたら…(TSUTAYAでレンタルできるよ!)




映画で描かれること
・ファニーが、自分からパニスに嫁にしてくれと申し出る。喜ぶパニス。 ・パニスがどうしても子供がほしかったのには理由があった。昔から子供がほしかったけど、奥さんとの間には恵まれなかった*8。 ・自分の家のベランダ部分(外から見える壁の部分)に「PANIS      」と掲げているのだけど、右側にスペースがあるのは「PANIS & SON」とするためだった。そうするためのアルファベットの形をした木材は常に家の中に用意してあった。 ・セザールは最初再婚を反対する。 ・けどパニスたんの経済力に負ける。 ・名づけ親になることで、直接の祖父とは名乗れなくてもいつでも孫に会えるようにしてもらった。名前は「セザール・マリウス・パニス」通称セザリオ。
・ファニー、無事に出産。パニスの親戚が一同に家に集まる。家長さんから「パニス家の血筋が途絶えるところだった、ファニーは天使だ、本当にありがとう」と。そう、パニス家には他にも後継ぎがいなかったようなのである。それを聞いて、諦めと覚悟の表情を見せるファニー。 ・1年後、セザリオの誕生日。仕事に出かけたパニスの家へ、マリウスが訪れる。子供は8か月と聞いていたのに、1歳の誕生日ケーキが部屋にあるのを見つけてしまう。そして自分の子だと気が付く。 ・そこへパニスたまたま帰還。この後のやり取りは大体舞台と一緒
・セザリオの6歳の誕生日。港から少し離れた小高い丘の上に自宅を構えるパニス一家。 ・望遠鏡を誕プレとして渡すセザリオに与える、オノリーヌ。最上階の小窓から海を覗くセザリオ。母・パニス・セザールが部屋に上がってくるときに望遠鏡を隠したあたり、両親は海から遠ざけようとしていたのかな ・セザリオ「セザールの息子、マリウスってどんな人なの?僕も船乗りになりたいんだぁ。大人たいはマリウスの話をすると、決まって咳やくしゃみをしてごまかすけれど。僕会ってみたい!誕生日パーティーに招待しようよ!」 ・一同沈黙 ・セザリオ「お母さんは知ってる?好きだった?」 ファニー「とてもよく知っているわ…」※無邪気セザリオは無罪だけれど、本当に血は争えないですね(号泣) ・誕生日パーティーの準備があるから、とオノリーヌと出かけることになったセザリオ。港に行きたいとせがみ、念願の港付近へ。オノリーヌは以前の店に立って「私の海~~店~~」みたいなこと言って泣くし、こうやって商売したらいいのよとレクチャーを始める。本当はずっと戻りたかったんだろうな。 ・舞台で言うところのピコアゾーに出会ったセザリオ、マリウスのところへ連れてってと頼む ・いたんだよ近くに ・船に乗って、海を横断、船の修理工場?へ。そして再開するマリウスとセザリオ。 ・マリウスが明日アメリカへ行く予定だと告げると、僕も一緒に連れてって!と頼むセザリオ。純粋な目がキラキラしている ・そこへ登場するファニー。「パニスが危篤なの」←セザリオがいなくなったとオノリーヌに聞いて気を失った マリウスが車を出して送ることに。 ・送り届けて帰ろうとするマリウスに、ファニー「あなたのこと探さなかったのは復讐」*9 ・死に際のパニス。マリウスを見てまた気が動転する。けれど、セザールにとある事項の代筆を頼む…

(※ファニーの再婚相手になってくれ。ファニーの最愛の人ならちょうど良いだろう。セザリオに父親になってくれ。セザリオの実父ならなお良いだろう

ここでEND



これを見たら、パニスがどうして息子さんにこだわったのかもよく分かったし*10、最後の対応を見て、ファニーに対する愛というか、幸せにしてあげられる方法も分かっている大人な対応だなぁって。オノリーヌもオノリーヌで、お金を持てたことだけで幸せになれたわけじゃないんだなぁとか。ファニーは割とお金持ちの暮らしに満足していそうな雰囲気ではあったけど。

でも何よりも。映画のマリウスのクズさが目立って。なんだろう、照史くん演じるマリウスより、様子が良くないの。いけめんではあるけど。だから、この話の本質?としての、マリウスのクズさを感じることができました。そのおかげか、個人的後半戦で見たマリウスの感想は「ファニーも自分勝手だけど、マリウスもマリウスでめっちゃクズ」「2人ともまだまだ子供だったね」でした。


セザールが叱りつけてるところとかね、「このクズ!」うちわを掲げたいくらいクズ。クズクズ言ってごめんね、だけどクズ。「子供は俺たちのもんだ」じゃないのよ、少なくとも、「俺とファニーのもんだ」なのよ。自分に子供ができたと知らなかったとはいえ、血も繋がっていない人の子を、自分の子として、2年間、母親以上にかわいがってくれたパニスがいるのは変わりがない事実で。「パニスさんありがとう」の一言が出てきてもおかしくはないわけです。本当は自分が養わなきゃいけなかったファニーと、なんならオノリーヌ・クロディーヌまでお世話になっているわけで…
パニスは自分の命よりもあの子が大切なの」と聞いてもなお、3人で逃げようって言い出せるマリウスくんの頭はお花畑なのかな??大丈夫??しかも食い下がるところが、「私の体をパニスは触ったことがない」って聞いたとこって…セザールが言った通り、マリウスが欲しかったものって結局家庭ではなくて、ファニーそのものだったんだなと改めて実感させられた。浦島太郎状態なマリウスからしたら、仕方がないことだとは思う。思うけど。突然奪って逃げるはしちゃダメ絶対…
パニスも幻聴がひどいなーって思ってしまっていたけど、坊やが大切すぎて、本当に小さなことにまで気にかけてしまうほど心配性で、坊やのことを誰よりも愛しているんだなと感じられるようになりました(遅)。

でも生まれる前から死ぬ日まで俺たち恋人だろ、はね、いや気持ちはわかるけど解せないのよ。だってパニスさん10年後には死ぬって言ってるんだもん…2幕の時点ではあと8年だよ。死んだ頃帰ってきたら…なんてマリウスのことだから思ってそう。何ならファニーも思ってそう(想像がひどくてすみません)


こんな感じで、主役2人に懐疑的な気持ちしか抱けなくなってしまった後半戦でした。


でも。こんな悲しい物語が繰り広げられている1枚壁の外では、楽しく恋愛しているプティとニャがいたり。楽しく飲んだり、娼婦っぽい子がフラメンコ習ってたりとか(ここ、ギターのお2人、右手をエアーにしたり歌ってるフリしたりしてるんですよね!)。

マリウスが船出したことに対して、めちゃめちゃ怒っているセザールへ、「どうしてそんなに怒ってんの?」と問いかけるエスカルトフィグ船長とブランさん。まさかファニーとアレソレしてから出てったとも言えないから、セザールは「勝手に家を出て行ったから」としか答えられず。2人も、お前あの年の息子に何言ってんだ、自分だってその年のころは好き勝手してただろって言うしかないし、セザール自身も「俺は、俺の息子じゃなかったからだぁ~!」ってプティに噛みつきたくもなるよ。この言葉、観てるときはあまり実感できなかったんだけど、「俺は俺の息子じゃなかった=俺はマリウスのように不貞行為してから、女の子泣かせるって分かってるのに船乗りになるような男じゃなかった」って意味なのかもって後々気が付いて。そうしたら、船に乗って行ってしまった息子のことが心配で心配で仕方がないけれど、同時に「どうしてそんな息子に育ってしまったんだろう」と自分を責めているセザールの気持ちも見えてきて。さっきも書いたけど、その気持ちはどうしても、 仲良しの2人にすら伝えることはできなくて。ああ、ただただ父親の愛って。深くて。辛い。としか思えないです。

プティもプティで。マリウスのこと、兄貴のように思っていたと思うんだけど。最後、旅立つときに物凄く怖い顔でマリウスのこと見つめていたんだよね。それって、プティは真実を知らないし、プティが一番大切に思っているニャちゃんのことを考えたら、また出ていくなんて信じられない!軽蔑!ってなってしまうのは必然なのかなと感じたり。

物語の傍観者としてこの話を観ている私でさえ、同じ話でも、前提条件が違うだけでここまで見え方が違うのかと思ったから、世の中の真実ってその個人の背景によって全部変わるんだなと改めて気付かされました。当たり前のことなんだけど。

だからこそ、自分が大切に思っている相手には、強がったりとか、女心が分かってない!って意地を張ったりせず、きちんと伝えあおうとする姿勢が大事なんだなぁ。私自身、わりと「そこは女として言わなくても分かってほしいよね~」なんて女同士で話してても言ってしまうタイプだから、反省。失いたくないものがあるなら、余計な強がりとか捨てて、素直になろう。まっすぐ伝えよう。自分が大切に思っている相手も、自分に対して気を遣いすぎることもあるかもしれないから、そんなことですれ違いが起きないようにしていきたいなぁと。この舞台を通して、そんなことを学びました。

ここはマルセーユ
ここはマルセーユ
愛情の国
俺たち 私たちの好きな街
みんな歌を歌い 楽しく遊び
きょうものんびり働く
そして満足して死んでいく
それなのにマリウスお前どこへ行く
熱病のような 海の誘い 旅の憧れ
哀れなお前マリウスどこへ行く

 

*1:マレジー

*2:なのか、そこから1か月通い続けたのかよくわからなかったんだけど

*3:そういえば、マリウスって結婚してくださいって言ってないよね

*4:なのか1か月前なのか

*5:ここでめちゃくちゃショックな顔をするマリウスを抱きしめてあげたい

*6:という当時の世界観+キリスト教の教え

*7:前半公演では「置いて」と言ってた気がする

*8:妻が産めなかったみたいなこと言ってたかな

*9:怖いよファニーさん

*10:娘生まれてたらどうだったの?とは思うけど。生まれる前から息子~!息子~~!って叫んでいたし